その昔、甲子園を西海岸に喩え、雑誌に書いたことがあります。少し強引でしたがなかなか面白い展開が好評でした。そのノリで思わず次はナポリ!と考えてしまったのが『トラットリア・エ・ピッツェリア アルコバレーノ』との出会いです。
今までにも美味しいトラットリアはあったものの、本格ピッツェリアはこのエリア初登場!店に入ると、石窯がまず目に飛び込んできてワクワクします。
「窯は開業に必要不可欠でした。残念ながら住宅地なので薪窯は断念。ガス窯にあわせて生地の配合もやり直したりと大変でしたが、今は納得出来るピッツアが焼けてます」と話すオーナーシェフの林康浩さん。
大阪のグルメのみぞ知る名店で長期に渡ってイタリア人シェフと共に働き、本場での研修も経て身につけた技を惜しみなく披露してくれます。
何はともあれ試したいのが、ナポリピッツァ。ローマ風の薄い生地ではなく、耳のぶあついもっちりしたタイプで、焦げ目がつくほど高温で香ばしく焼き上げています。
あ、耳と言っていては、甲子園をナポリに喩えられる日は遠い…。周囲の太いところは額縁=コルニチョーネと呼ばれ、こここそ、小麦の風味を味わえる醍醐味なんです。
ところがボリュームがあるので残す人や、耳は美味しくないと思い込んで最初から食べない人もいるらしく…「ここを食べてもらわな、あかんのです」と残念そうな林さん。
ぜひ、このお店ではコルニチョーネをしっかり味わってもらいたいものです。
また、宅配ピザに慣れていると「焦げ過ぎ」と思ってしまう人がたまにいるそうで…。
窯で焼くからこそコルニチョーネがでこぼこ膨らんで、ところどころ焦げ目がついて…それが美味しい焼き上がりのサイン。
まずはそこからマスターしなくてはナポリっ子にはなれませんね。
ついおしゃれな店構えなので、子供はNGかと思っていましたが、林さん自身、幼いふたりの子供のパパ。「大歓迎ですよ。みんな窯に興味があるので、ずらりと並んで見学していますよ」と笑顔。
子供向けのトマトソースのパスタやマリゲリータもあるので、なるほど、家族で楽しくシェアして食べられます。そう、このお店の合い言葉は『シェア』。
「せっかく外食するのだから、それぞれが自分の皿にもくもくと集中しているのは、つまらないでしょ?よく食べ、よく飲み、よくしゃべるイタリア気質を見習って欲しいので、シェアサイズにしています」と林さん。
例えば2人で出かけたなら、ピッツァとパスタ、一品ずつ選んでシェアするのが正解なのです。前菜に関しては「ちょろっと出て来るのではつまらないから」と、10種ぐらい豪快に盛られて登場。ワイン好きなら、この前菜でかなりグラスがすすむはず。
そしてメインは産地や旬で選んだ肉や魚を、タリアータ、オーブン焼き、カツレツ…食べ応え満点の一品に仕上げます。「食を楽しむイタリア人気質、いいなぁと思うんです。でも、時間にルーズなのには、参りましたね。
あと、とうてい真似できないこともあります。例えば、クリスマスに女性に赤い下着を贈るとか、ね」と苦笑いの林さん。
「でも、ワインを楽しく飲みながら、ご主人が奥様に料理を取り分けてあげたり…と、普段しないようなことができる店になればいいなぁと思うんです」と、締めくくりの言葉。
なるほど甲子園=ナポリは、やはりほど遠いけれど、このお店の扉がナポリに通ずる、なんてのは、ドラマチックで楽しいですよね!