『うどん道楽』と聞くと、頑固なオヤジさんが趣味でやってるうどん店、というイメージを抱きがちですが、お店にいるのは優しい笑顔のお母さん。
多忙な時間に娘さんが手伝いにはいり、母娘ふたりで切り盛りしています。
江本鈴江さんが最初にお店を始めた時は、どこにでもあるフランチャイズのうどん店でした。「なにせ素人なので、まずはフランチャイズでノウハウを学ぼうと思って。
その間に知人のうどん屋さんに通って手打ちの技術を学び、スープを開発し、10年後、フランチャイズ契約が切れたのを機に、このお店を立ち上げました」。
フランチャイズの時は、麺もスープも本部で完成品が届き、温めてサーブするスタイルだったので、楽だったものの「ダシは化学調味料の味が強くて濃かったし、麺は柔らかすぎたし。醤油ひとつでも決められたものしか使えなかった…」と、メニューに関しては不満が多かった江本さん。
せめてもと薬味のネギだけは、と、自前で調達し、新鮮なシャキシャキしたものを提供していたというだけでも、細やかな配慮を感じます。
さて『うどん道楽』の意味ですが…「うどん道を極めることと、うどんを楽しむという意味で道楽という言葉を使ったんです。語呂もいいでしょ」との説明。
なるほど、店名からしておいしいうどんを食べて欲しいという想いがひしひし伝わってきます。やっと自分の好きなように作れて嬉しいと思いきや、フランチャイズの時は毎日、まったく同じ味を提供できていたけれど、1から自分の腕にかかっているので、味が少し辛かったり、麺が少し柔らかかったり…毎日、厳しく自己採点しては反省しているのだとか。
「既製品の味に慣れた人は、ちょっと薄味って思われるかもしれんけど…」って、いえいえ、昆布と鰹できちんととったダシは優しいまろやかな味わい。
「お客さんに少し待ってもらわなあかんのが、申し訳ないんやけど…」って、いえいえい、朝、打ちたての生地をオーダーが通ってから切ってくれる麺は、小麦の香りが豊かでコシも弾力もあって、ツヤツヤ。
ダシと麺へのこだわりで、もはや100点満点ともいえるうどんですが、そこに追加して「薬味ネギは、あれば九条ネギにしています。」「ご飯は小粒で香りのいい岡山の米に決めてて。ガス釜で一升炊きするから美味しいはず」
「きつねの揚げは、探しまくりました。だって大きくてぶ厚めの揚げがいいでしょ?」
「カツ丼がそういえば、人気やね。揚げたてカツが美味しい、って。そりゃカツは揚げたてに限るわよね」
「あ、そうそう玉子も岡山産だわ。弾力があって、味が濃くて丼に最適なのが見つかったから」
と、出てくる出てくるこだわりの数々。
聞いていると、そのこだわりは、家族に美味しいものを作りたいという一心で奮闘している台所のお母さんと似ています。
そう伝えると「そうかもしれませんね。お客さんの8割が男性で、しかも若い子も多いから、つい息子のような感覚になります。
丼を始めたのも「ご飯ものも食べたい」というお客さんの要望からですし、家で食べたいという人も多くなったので、持ち帰りセットも用意しましたね」と、まさに優しい母親の表情。
初めて訪れるなら、甘く炊いた大きなお揚げが嬉しいきつねうどん570円か、腹もちのいいカツ丼680円あたりで、おふくろの味を感じてみて。「最近はお客さんの野菜不足が気になって…」とのことなので、そのうち野菜満載のうどんが生まれるかも?そちらもお楽しみに。