2019年3月までは伝統鍼灸玄珠堂であったこの地を師匠から引き継いで独立。これまでと同じく東洋医学独自の診察法を用いて、一人一人に適した治療方針を立てています。1〜3本の少ない鍼を用いて、治ろうとする力を最大限に発揮する伝統的な鍼灸スタイルです。
東洋医学に興味を覚えたのは高校時代。サッカー部だった松本さんは「本当によぅケガをしたんです。そしてよぅ接骨院に通っていたところ、まさにケガの功名で すが、マッサージの仕方が上手になりまして。仲間の部員にしてみたら大好評で、途中からマネージャーのようになってました」と当時を振り返ります。
好評だったのは嬉しいけれど、ケガをしてプレイできない悔しさも体感。そういう人のためにスポーツトレーナーを目指そうと考えたそうです。
その夢を軌道修正したのが大学時代。養護教諭の資格をとるために高校の保健室へ実習で行った時のこと。通学できるのに教室に入れない生徒がいたそうです。
「その子たちの心にどう接したらいいのか、悩みつつも何もできぬまま3週間が過ぎました。体のケアをすれば心にも通じると信じて、スポーツトレーナーになろうと決めていたのに、それでは心の奥底には届かないのではと考えるようになり…」
そこで、医療で精神的な部分も癒せないだろうか、と模索をした結果、精神と肉体はセット=『心身一如』という東洋医学の考え方にたどり着いたと言います。
とはいえ、なにごとも体感して納得したい松本さん、大学卒業後、鍼灸の専門学校に入学する前に患者を装い、鍼灸の治療を受けに行きました。
すると実際に鍼を する前に舌を診て、脈を診て、爪を診て…かなり念入りに体の情報を収集して総合的に不調の理由を探し、やっと適切なツボに鍼や灸をするという診察法に「こ れだ!」と納得。昼に接骨院で働きながら、夜間に専門学校へ通い始めたと言います。
専門学校に入学して驚いたのが、風邪をひいた際、内科でなく鍼灸へ行くという選択肢もあるのだということ。
昔から中国にはさまざまな治癒法を集めた『傷寒論』という伝統中国医学の古典があり、それによれば風邪のおこる理由も治し方も解読されているというのです。
実際に専門学校時代、風邪で倒れ、高熱で吐き続けた松本さん、病院へ行かず、同じ流派の鍼灸院へ。
手の合谷(ごうこく)のツボに鍼を刺してもらっているうちに、放熱を始め、火照っていた体が冷えてきたのを実感。3日の通院で治り「陽と陰のバランスが崩れると、病気になるのだなぁ」としみじみ思ったそうです。
「私もじっくり2時間かけておこないます。症状の説明にはじまり日常生活から性格を形成するうえ で関わりのあった幼少時代の思い出話まで交えた問診に、舌の様子や顔の表情など見た目で判断する望診、声や呼吸、匂いなどの診断材料を集める聞診、脈をは かったりツボをみたり…実際に触診することを意味する切診。その四診を終えた後に、ようやく治療に入ります」。
また「鍼と聞けば、患部に直接刺す、たくさん刺す、と思い込んでいる人が多いけれど、うちはあくまでも適切なツボにだけ刺します。刺さないでかざすだけの治療もあります。いかに少ない鍼で治すか、が腕のみせどころなのです」と熱く語る松本先生。
去年生まれたばかりの愛娘が、奥様のお腹で逆子になった時も、鍼が活躍したといいます。「夜泣きや疳の虫には小児鍼も効果がありますので、気軽に相談してくださいね」と最後は娘さんを抱っこしながら優しい父親の顔をみせてくれました。