里中町の住宅街に、一瞬、カフェかケーキ屋さんに見間違える美容室があります。「登下校で通りかかる子供たちの中には「お城みたい」と可愛い表現をしてくれる子もいるんですよ」と、竹原弘美さん。「Hair Make MIHO」の二代目です。
「Hair Make MIHO」は、昭和33年創業、本郷学文筋沿いにお店を構えていました。創業者は弘美さんの母親・美保子さん。美しさを保つという、美容室にぴったりの意味を持つご自身の名前を店名にしたそうです。
生まれる前からおうち=美容室、「ただいま」と帰ればいつも母親の仕事風景を見ていたので、弘美さんが美容師を志し、お店を手伝うようになるのは、ごく自然なことでした。いっときはスタッフ3名でやっていたこともありましたが、美保子さんが平成8年に亡くなってからは、弘美さんがひとりで切り盛りしてきました。そして、とうとう美保子さんが心配していた立ち退きの話がやってきて‥。「母が大切にしてきたお店、絶対に守りたい」と、移転先を探し回って現在の里中町3丁目に決定。令和2年6月にリニューアルオープンとなったのでした。
親子三代通っているなど、客層は幅広いため、新店を作る際、足腰が弱くなったり、車椅子を利用している方も、訪れやすく、過ごしやすいバリアフリー構造にとことんこだわりました。エントランスは階段以外に、ゆったりしたスロープも用意。席は、風を感じ、庭の花を愛でることができる窓際にひとつだけ。シャンプーから最後の仕上げまで、その椅子に座ったまま受けることができます。スタッフが弘美さんひとりゆえ、席はひとつにしたそうですが、奇しくもソーシャルディスタンスを求められる時代。「サロン貸し切りという贅沢な状態で施術をしてもらえて安心」と喜ばれるのだそう。びっくりするのが、車椅子のまま利用できるゆったりしたトイレ。ちょっとした小部屋の広さにびっくりします。全盲だった父親の介助での苦労体験から、徹底したバリアフリーを目指したそうですが「想いを形にしてくれる建築業者を見つけるのが大変でした。いざ、完成すると、店舗空間が贅沢なぶん、自宅の方が狭くなってしまったんですけど」と苦笑する弘美さん。よき理解者の旦那さまの応援もあり、理想に近い形になったそうです。
そして「Hair Make MIHO」といえば、花 !初代の店も季節の花が彩りを添えていましたが、新店舗はゆったりした前庭もあり、パワーアップ。毎朝、花の手入れから1日が始まるという弘美さん。丹精込めて育てられた花が四季折々の表情を見せてくれます。窓からそんな景色を眺めながら、パーマやカラーリングなど長時間の施術の時には、豆から挽いて淹れたコーヒーをいただきながら、しばし談笑。髪だけでなく心も軽やかになる美容室。聞き上手な弘美さんとのおしゃべりを楽しみにして来られる方も多いようです。「年齢などを理由にやりたいことを諦めているという話を聞くたびに、やってみましょう!とエールを送っています。人生は一回きりですから、お客様にはいつまでも輝いていてほしい」。そう言う彼女自身、若い頃に楽しんでいたダンスを再び習い始めたそうで、イキイキしています。「母は山登りが大好きで、休みになると近くの山へ出かけていました。そして、憧れだったスイスのマッターホルンにも、病気になる前に、単身で登山してきたんです。そんな母を見習い、人生を後悔しないように、やりたいことが見つかれば、トライすることに決めました」と微笑みます。ふと見上げると、壁には美保子さんが撮ったマッターホルンの雄大な写真。まるで弘美さん、そして常連さんたちを、いつも見守っているようです。