岡太神社の東南、小松南町1丁目商店街の一角に佇む『A1不動産』。近年、ネットで検索して訪れるお客さんも多いため、迷わぬように、阪神武庫川駅から電柱などに看板や道標を用意しているんです、とオーナー木本昇さん。それらを辿れば、大きなのぼりの立ったお店に到着できます。

窓越しにさまざまな物件の案内が展示され、入るとカウンターがあるのは不動産屋さんの定番ですが、このお店にはカウンターの奥にゆったりしたテーブルセットがあって、大型テレビも。まるで木本さんのお家を訪れたようにリラックスして話が出来るのが、他の大手チェーン店と大きく違います。木本さんご夫妻と女性スタッフの三人で、アットホームな経営をしています。若いスタッフがネット関連を担当、間取り図面は、奥様の敏子さんが担当。図面が得意だなんて、素敵ですねと伝えると「全くの素人だったんですけど、この仕事を主人が始めたからにはやらざるえなくて」と微笑む敏子さん。木本さんは若い頃は甲東園でスポーツ用品店を経営していたのだけれど、54才で不動産業に転職したというのです。一見、何の繋がりもない転職に思えますが、実はなるべくしてなった天職だと、取材して感じました。というのも、お客様の多くは、近くにある兵庫医大と武庫川女子大の学生さん。なかには遠方からの学生さんもいます。未知の場所での一人暮らしを心配や不安するご本人と親御さんから、不安を取り除けるように最善を尽くすという木本さん。特に、親御さんの立場に立ってアドバイスをするといいます。「若い人は見た目などで物件を選びがちですが、第一に通学に便利なことが大事。朝の1、2分は、日中の10分、20分に値するのだよ、と、学生さんに伝えます。まずは勉強を頑張って欲しいというのが親心ですからね。特に将来、命を預かる仕事に就く医大生には、しっかり勉強してほしい」。そこには以前、治療のために病院のそばに部屋を借りられた家族がいて、その娘さんが余命6ヶ月の宣告から奇跡的に助かったという感激の経験も、影響しているのかもしれません。ちなみにテレビの横にある招き猫コレクションの中には、その家族からいただいた記念の猫ちゃんもいるのだそう。

実際、取材日にも、学生さんが一人、部屋の内覧で来ていました。春に卒業し、インターン先が決まり、今借りてる家より少し大きめの物件をさがしているとか。「なんか、雰囲気変わったね」と声かける木本さんに「パーマかけたんです」とにこやかな返事。まるで近所の知り合いや親戚みたいな雰囲気は見ていて微笑ましいものでした。親御さんから大事なお子さんを預かってるという意識の強い木本さんと、第二の父親のように頼る学生さん、親戚がそばにいてくれるような感覚で安心している親御さん。その関係性が色濃く出ているエピソードはたくさん！ある時は夜中の2時近くに鍵を無くして家に入れないと連絡が入り、大家さんに連絡を取り、鍵を借りに走ったり、またある時は子供にいくら電話しても起きないので、遅刻しないよう叩き起こしてほしいと母親からお願いされて起こしに行ったりと、不動産屋の枠を超えたフォローをされています。

「年始の頃に取材に来てくださったら、美味しいお菓子がたくさんあったのに」と、木本さん。実家に帰省した学生さんが持って来てくれる珍しい日本各地のお菓子が集まるのだと言います。スポーツ用品店時代、お店に部活帰りにお店に立ち寄っていく少年少女達とのおしゃべりでコミュニケーション力や、若い子の想いに寄り添える感覚が身についている木本さんだからこそ、のエピソードの数々です。

ご自身では、人見知りで口下手で、取材も苦手だとおっしゃるのですが、甲子園けやき散歩道で能登半島地震の募金活動をしようと提案したのは、実は木本さんなのです。人との絆をとても大切にする、その人柄が単に賃貸の契約だけでは終わらない、唯一無二の不動産屋として人気なのだと納得しました。