午前9時の開店と同時に、厨房に美味しそうな香りが漂い始めます。鰹と昆布で出汁をとり、佃煮が醤油色に甘辛く煮炊きされるコンロ。一角では炭がいこっていて、紅鮭が焼かれ、豆が煎られ…これぞ後世に伝えたい『日本の台所』といった光景。男っぽい厨房ですが、働くのはおそろいのエプロンをまとった女性達です。
創業19年目。おばあさんが営む料理屋のお土産として評判だった佃煮の専門店をしようと、北佳子さんがお母さんとスタート。開業と同時に『贅沢茶漬け』が全国区で有名となり、ふたりでは到底、まわらなくなり、板前さんに来てもらっていた時期も。12年ほど前からミセスのスタッフを加え、厨房を盛り上げていったといいます。
と、佳子さんが、それぞれ持ち場のスタッフを紹介してくれるのですが、皆、笑顔で会釈しつつ、手を一度も止めることなく黙々と作業を続けます。
長く務めている人ばかりで、なかには軽く10年以上という人も。「やっぱり丁寧に作るということは、美味しさにつながるんだなぁと、日々、実感します」と勤務歴5年でありながら新人だというスタッフの言葉こそ、この厨房で働く魅力を物語っています。
そして「家では同じにはできないけれど、気をつかうようになりました」と食材に関する徹底ぶりもスタッフを虜にしている模様。なぜなら・・・・
「昆布は元揃真昆布の一等ものを探します」 「生姜は有機栽培。だから搾り汁まで残さず使いますよ」
「道東産の鮭、いい顔でしょ。脂のノリも最高!」「胡麻は国産の有機栽培のと優秀なトルコ産を使い分けてます」と、食材を語らせたら佳子さんの解説は止まらない。そして「でもね」と続きます。「これで決まり、はないんです。もっといいもの、おいしいものに出会ってしまったら、知らない顔できなくて…」。
これまでに醤油、みりん、砂糖…その都度、銘柄が変わりました。もちろんすべてクオリティアップの方向で。なるほど店先の暖簾に書かれた「無添加 純正」の文字に、いつわりは微塵だにありません。
その徹底ぶりは、今は亡きお母さんの影響。料理屋の娘として味にうるさく、どんなに忙しくても台所に立ち、旬のものを食卓に並べ、食へのあくなき探究心があったそうです。
そのDNAを受け継いだ佳子さんですから、ある日突然「おにぎりやさんになる」と宣言したのも、納得です。そもそもおにぎりは、まかないでした。
作業に熱中して昼食をとらないスタッフのために店の商品を具に佳子さんが握ったところ、大好評。「毎日でも飽きない」「力が出る」というスタッフの声を聞き、お客さんの元気の源になれば、と商品化に踏み切ったのだそう。
大きさから具の種類、塩加減…。吟味した結果、ふんわり大きな俵型で海苔なしの『お茶碗のご飯を、そのままおにぎりにした』スタイルが完成。毎朝30個ほど並びますが、昼すぎには完売という人気ぶりです。
最近では佳子さんのお兄さんの注文で自宅用に作ったふりかけをきっかけに、鰹節から胡麻、ちりめん…こだわりの食材の玉手箱とも言える『贅沢ふりかけ』が誕生。
看板商品の『贅沢茶漬け』に継いで大ヒットの予感です。まだ行ったことがない方、まずは味見をかねておにぎり1個から、どうぞ。