店名『但馬屋』のどおり但馬牛を中心に、和牛のいい肉がお手軽な価格で手に入ることで人気のお肉屋さん。
お値段を控えめにできるのは、牛をまるまる1頭買いするからだそうで、そういった生産者とのお付き合いが、充実の品揃えにもつながるといいます。
そこで毎朝、骨をはずしただけの大きな肉の塊が多数、店に届き、ご主人の東博行さんと息子の明博さんの仕事は、まず筋をひくことから始まります。
大きな肉を冷蔵庫から抱きかかえて出して、短剣のような鋭い包丁を巧みに操る親子。黙々と、あ・うんの呼吸で、野性的な塊を美しくおいしそうなフォルムへと、成形していきます。
店内には良質の肉を物語る賞状や盾がいくつか飾られていますが、これはほんの一部だそうで。
「もっとあるけど、置くとこないし。盾を売ってるわけちゃうからね(笑)」と自慢するわけでもなく、ユニークなご主人。
実は博行さんの幼い頃の夢は「肉屋さん」だったというのです。そして子供の頃に仕事風景を見せてもらっていた近所の精肉店で修行し、目利きとなり、今に至ったといいます。
創業はいつですか?と尋ねると「おい。お前いくつになった?」とすぐそばにいる息子さんに質問。息子さんとお店は同い年。「ということは28年目になるんかぁ」と感慨深い博行さんに、奥様の麻弓さんが横から「ほんま大変やったわぁ」としみじみ。
聞くと、出産3ヶ月前の開業時から店に立ち、出産前後20日間しか休まなかったのだとか。さすがお肉屋の女将さん!しかも家族揃ってお肉を食べるのが大好きで、ほぼ毎日、肉料理だと言います。
「家でも肉って、手間だし、飽きません?」と失礼ながら質問したところ「肉はらくちん。結局、焼いて塩こしょうが一番美味しいんです」とこれまた、ご主人に負けないくらいお肉にぞっこんな様子。
「ステーキの美味しい焼き方をよく聞かれるけど、一番大事なのは焼く30分前に冷蔵庫から出して常温に戻すこと。でなきゃ中が冷たいと表面だけ焦げちゃいます。あとはお好みの焼き加減で、とお伝えしてます」とにっこり。美しい肌艶の奥様を見ていたら、肉こそ美の秘訣では、と思ったり…。
美しいサシの入ったしゃぶしゃぶ肉や、見事なステーキ肉などハレの日の食卓用だけでなく、こまぎれやすじ肉、ホルモンももちろん揃います。
豚に関しては鮮度が命ということで、東ファミリーが美味しいと認めた鹿児島産黒豚と兵庫県産の厳選された豚が並んでいます。
また惣菜コーナーも人気があって、ポテトサラダコロッケや、和牛すじコンコロッケなど、オリジナリティあふれる商品が気になります。
見ていると最初から肉と惣菜の両方を買う予定の人が多いなか、揚げ物が揚がるジュージューという音や香ばしい香りにつられ、つい、というお客さんも複数いて、微笑ましいこと!
小銭をきっかり握りしめて初めてのおつかいとしてコロッケを買いにくる子供がいたり…。
献立が決まらない時や予算がある時など、女将さんに相談し、最適な肉を選んでもらえたり…。
対面式の精肉店ならではの風景が、今の時代、珍しくもあり、楽しくもあり。
これからも30年、40年、続きますようにとお伝えすると「こいつの夢は焼肉屋なんです。いつか夢が叶うといいなぁ」と優しいまなざしを息子さんにむける博行さん。近い将来、焼肉屋さん併設の『但馬屋』に生まれ変わるかもしれませんね。