事務所は、けやき散歩道沿いのビルの裏に建つコンテナハウス。「現場を飛びまわっているので、めったにいませんがなかなか快適ですよ」と塚本晃司さん。
断熱材入りで冷暖房も完備。荷物の出入りもしやすいように、と、二面に付けられた扉越し、お隣の庭の緑が借景として目に飛び込んでくる。時折、屋根の上に止まり、さえずる鳥の声もして…。男の隠れ家のようなコンテナハウスから、塚本さんのセンスや人柄が伝わってきます。
そもそも建築畑ではなく、セールスエンジニアとして務めていた油空圧の会社から転職を考えた際、何か資格を取ろうと思って取った資格が宅建だったのが始まり。バブルの最中、ハウスメーカーに再就職が決まり、素人の自分がお客様のために何ができるかを考えた結果、家を建てる際に一番問題になるお金について詳しくなろうと、その日から銀行巡りの毎日。ローンの組み方まで相談にのることができる事で、成績を伸ばしていきました。ところが知識と経験が増すにつれてお客様に有益な内容と会社の方針とが合致しない矛盾に嫌気がさし、退職。尼崎の工務店で現場経験を積むことで必要な知識を取得、その後様々な縁に恵まれ独立。そうして塗装から金属、木造の善し悪しも熟知し、資産計画にも詳しい建築家が誕生したのです。
「やれることは、自分でやっちゃう。わからないことは、とことん追求しちゃう性格は、子供の頃からです」と笑顔。
面白いことに、やんちゃということではないけれど、家にあった祖父の大事な勲章を引っ張り回して引きちぎり、銅は柔らかいことを確認したり。刀はまっすぐ当てたら切れないということを実証しようと叔父さんの家の日本刀を振り回して、紙を切ってみたり。さんざん怒られながらも納得していく幼少期の塚本さんの姿は容易に想像でき、微笑ましく思います。
実際に仕事の話が来た時には、まずとことん施主さんと話をします。そして予算内でできるベストを目指し、信頼できる職人さんと一緒に現場に入り創り上げる。幅広い人脈があるので、様々な注文の受け入れ態勢が整っています。最近は介護施設や工場からの建築、
設備の相談も増えてきているとのこと。建物検査の専門家でもあるので建築や設備の不安や疑問、雨漏りや欠陥住宅での悩みが有れば一度相談してみては?
けやき散歩道にも塚本さんの手がけた店舗、リノベーションがいくつかあります。事務所の向いにある「リトル書房」さんも、そう。本屋さんなので明るい色に、とピンクのグラデーションをかけた看板を作成。店内の床も、明るく仕上げています。実は、看板のビス止めが見えたらよくないと、楽しい仕掛けが…。「誰も気付いてくれないから、言っちゃいます。鳥や女の子のシールでビスを隠しているんですよ」と、説明してくれました。ぜひ、みなさん見上げて確認してみてください。
事務所内に飾られた福笹が尼崎のえべっさんのものだったので、つい尋ねると「数年前に、たまたま尼崎のえべっさんに願掛けをしたら、叶ったんです。それで御礼代わりに、境内のお稲荷さんの垣根が傷んでいたので、無償で直させてくださいと神社に言ってね。大工さんにお願いせずに自分でやらないと神様に気持ちが伝わらないと思い、自分で全部直したんです。以来、えべっさんは尼崎です」と。一般の建築家のイメージと違い、人情派で個性派さん。だからこそ一度関わるとずっと長くお付き合いが続く施主さんが多いというのも、なるほど、なるほど。