『スーパーヘアーセオ』の瀬尾秀夫さんは創業者である祖父の清一さん、二代目の父親・寛司さんの跡を継いだ三代目。

三代続くお客さんも多い、人気店です。男性の理髪店というと、髪を洗わず手際よくカットし、仕上げに髭を剃るものの滞在時間は短いイメージですが、ここは平均して１時間だとか。

まず驚くのが各席には専用テレビが置かれていて、シャンプー台も横に完備。施術の最初と最後に髪質にあったシャンプーをして、顔そりは１人１人、替え刃式のカミソリで丁寧に。時間に余裕がある人は、店内のマッサージ機でマッサージを受けて帰ることもできるといいます。

理髪店でシャンプー２回！「じいさんの時からやっています。じいさんは粋な人でね、N.Y.に行った際、泊まったホテル内にあった理髪店を気に入って、そこのご主人と仲良くなって。ホテル内の店ゆえ爪の手入れや靴磨きなど、サービスが行き届いているのを見て、刺激を受けたみたいです」という説明で、なるほど、細やかなサービスの原点が見えました。

その後、家族ぐるみのお付き合いが続き「私自身、高校卒業後、その家族を頼ってN.Y.で語学留学。向こうの大学を卒業して帰ってきました」と秀夫さん。異国で過ごした経験からか、ユニークな発想が目立ちます。

例えばかき氷シャンプー。夏場に涼んでもらうため、かき氷マシンで削った氷とメンソール系のシャンプーで頭を洗うプランを発案。価格は散髪料＋100円。残暑の年は10月頃まで、オーダーが続くこともあるとか。また店頭でミニチュア鉄道を走らせたり、メダカを飼ったり…。

父親に連れられてカットに来た子供らが退屈しないようにと楽しい配慮も大好評。「ミニチュア列車は僕の趣味。通りがかりに窓から覗きこむちびっこファンも多くなり、定期的に電車を変えたり、街並に季節感を出したり、演出を変えたり」自身が楽しんでやっているのが、微笑ましい限り。

実はこのお店、オーダーメイドかつらの専門店としても、全国に知れています。「じいちゃん自身、かつら愛用者でして、開発に力をいれていました。

オヤジは多くのお客さんから髪の悩みを聞いているうちに、かつらをなんとかもっとリーズナブルに取り扱えないか、と考えまして。中国のかつら製造工場と直接に契約をとりつけ、広告費や代理店手数料を省いた価格で提供できるシステムを開発したんです。

そうやってオヤジの作ったかつらを、じいちゃんは喜んで愛用し、かつらであることを公言し、体を張って宣伝をしていました。

オヤジはハゲなかったので、かつらは使っていませんが、育毛剤のロゲインを自分の頭を実験台に使い続け、抜け毛を予防できることを身を以て証明しました」と、ふたりのエピソードをおもしろおかしく、でも尊敬の念をもって語る秀夫さん。

自身も跡を継ぐにあたり、実際にカツラをかぶって、その感覚を体感しようと、バリカンで頭を剃ったそうです。「病気で髪を失う人など、かつらユーザーはデリケートな悩みを抱えているので、個室で対応します。髪の長さやボリューム、髪質の希望などで価格が変わるのが普通のかつらですが、うちのはどれも一律価格。

それは宣伝費などのため、高値をつけ過ぎているかつら業界への、挑戦状として守り続けたい」と言います。

本来、跡継ぎとは、店を継ぐだけでなく、その精神をも継ぐものだと、しみじみ感じるお店です。