確か聞いていたのは「鉄板焼・お好み焼きの店」のはず。ところが『花の花』のオレンジの暖簾をくぐると、長い鉄板はあるものの、カウンター内の棚にはボトルキープの焼酎がずらり。
手書きのメニューには「手羽塩焼」「豚ヘレ一口カツ」「えいひれ」「カレーうどん」…これって居酒屋では?
「6年前に、もともとお好み焼き屋さんだった店舗を居抜きで購入したので、最初は私ひとりでボチボチお好み焼きをメイン焼いて、少し一品料理を用意して…と思っていたんです」と語る女将の森友美子さん。
ところが予想以上にお客さんが来てくれ、てんてこ舞いの忙しさに。そこで大型トラックの運転手をしていたご主人・森文応さんが休日や仕事明けに手伝いに入ってくれるようになり、大助かり。
1年半前からトラックを降りた文応さんと二人三脚で店を切り盛りするようになったと言います。
大型トラックの運転手と聞くと、つい荒くれ男を想像してしまいますが、それはあくまでも映画の中の話。「僕は家内の助手ですわ」と文応さん。
その言葉のとおり、鉄板の手入れや店の掃除、洗いものなどの雑用を黙々と丁寧にこなしていきます。
一方で、調理師の資格を持ち、保育所で給食を作ったり、出産時の入院の際に出てくる料理が美味しいことで知られる産婦人科クリニックの厨房に立ったり…これまで数多くの「おいしい」を生み出してきた友美子さん。
裏方の仕事をすべてご主人に任せられるようになったので、その腕前を多数のメニューで披露することができるようになったというわけです。
そしてお客さんに美味しいものを出したいという真面目な仕事ぶりが、人気の秘密なんでしょう。お好み焼きの豚バラ肉は『肉の但馬屋』から、魚はすぐそばの『タマヤ』さんから。
けやき散歩道の仲間のお店の食材も多数取り入れているようです。「ちょっと高いけど、でも、やっぱりあそこの肉は美味しいし、あそこの魚は、ものがいいから」と、安く仕入れることに専念するのではなく、品質を見極めて買い物をするあたり、さすが子供や妊婦さん、新生ママの食事を作っていただけあります。
そうそう、多彩なお客さんに愛されていることを現すおもしろい証拠が、貼られたカレンダー!「年末年始にお客さんが持参されたカレンダーをひとつ貼ったら、他のお客さんが「うちのも」「うちのも」って」。
その数、10以上。「ちょっと貼りすぎでしょ?」とおっしゃるけど、いえいえ、壁紙のように楽しいし、どこの席に座っても「次、いつ来よう?」とスケジュールをあわせることができていいのでは?というのが素直な感想。
そんなやりとりを聞きながら、トレードマークのハンティング帽をかぶり、赤いタオルをまいて優しく微笑む文応さん。
「主人のタオル、おかしいでしょ?「猪木」って冷やかされるんですよ」「帽子はね、伸び放題だった髪を押さえるために息子のをかぶってきたのがはじまり。本当に、ボサボサ頭だったのよ」と冗談言いながらも
「お好み焼きとか焼き物は、主人に任せてます。主人のほうがうまく作れるんですよ。それと最近、もうひとつ「激辛カレー」も主人が作るんです。かなり辛いんだけど、男性のお客さんに人気なんです」「奥の座敷は主人が作ってくれたんです。掘りごたつ式で、靴を脱いでほっこりできるから子連れやご年配連れの家族に人気のスペースで気に入ってます」
と、さりげなく、しっかり褒めるあたり、長年仲良し夫婦でいられる秘訣かもしれません。