「クッキーが美味しいからお遣いものにします」「焼きドーナツ、朝ご飯代わりに食べれちゃう」「誕生日のケーキはかならずあそこ。生クリームが苦手な息子もバタークリームに大満足」「ケーキもついた充実のランチメニューがいい」「え?私はモーニングの常連」…と、お店の使い方は人によってそれぞれ。で、全部正解!
もはや半世紀近く、地元で愛され続けている『パティスリー ベルン』。
東京オリンピックの4年後、大阪万博の2年前。阪神間でもまだ洋菓子屋さんが数少ない昭和43年に創業しました。市内に3店舗あるうち、甲子園本店は3階建て。
1階の販売スペースには、たくさんのお菓子が並び、2階はカフェ。モーニングにはじまり、ランチ、そして喫茶スペースとして地元の人に憩いの場所と時間を提供しています。実は1階の奥だけでなく3階にも工房がありまして…。若いパティシェが忙しいなかも、笑顔で今日も美味しいお菓子を作っています。
オーナー倉本洋海さんといえば、甲子園けやき散歩道の会長。温厚な性格と生真面目さは一度でも話をすればビシバシ伝わってきますが、実は茶目っ気のある一面も隠し持っておりまして…。
それを証明するエピソードのひとつが、30年以上もベストセラーを誇るお菓子『甲子園サブレ』。サブレとはフランス語で砂をまいた、という意味。ほろほろした口当たりを表現してますが、そこからピンと来た洋海さん。甲子園球場の土入りのお守りを作ってこのサブレに付けよう、と思いついたのです。
球場関係者に熱心に説明したところ想いが伝わり、砂をわけてもらえるようになり、甲子園の砂入りの『甲子園サブレ』は一躍、大人気となったのだとか。
「残念ながらアイデアを真似したがる店が増えて、球場側から対応が難しくなったからと断られたんやけどね。でも、画家の伊藤太一さんによる西宮の地図が描かれた包装紙も評判で、甲子園のおつかいものとして、いまだ人気ですわ」と洋海さん。
そしてアイデアマンの父に負けじと頑張るのが、二代目パティシエの倉本洋一さん。
幼い頃、友達から「毎日ケーキが食べられていいな」とうらやましがられていたものの、実際はたまにお菓子の切れ端などをもらう程度だったとか。それでも忙しい両親の姿を見て育つうちに、いつしかその背中を追いかけていたと言います。
そんな洋一さん、言葉を多く交わしたわけではないけれど多忙な父親との思い出といえば、キャッチボールだそうで…。
そこから、野球ボールの形を模したお菓子『想いdeキャッチボール』を誕生させました。しかもこれ、洋海さんが修業時代に先輩から教わった製法で作った『マドモアゼル』を息子の洋一さんが今風にアレンジしたというドラマ性の高い商品。
パッケージデザインは武庫川女子大学の生活環境学科の学生さんに協力いただいたとかで、地元の人々とアイデアをあれこれ交わした末に完成。まさに、さまざまな想いがキャッチボールされたというわけです。
また市内の中学生対象でおこなわれる職業体験『トライやるウィーク』での生徒の受け入れや、ハロウィンに仮装してきた子どもにお菓子プレゼント…など、地域に貢献し、地域を盛り上げようという活動にも力を入れている『ベルン』。
「こどもからご年配まで、お菓子を通して、地域の方の心に平和をもたらしたい」という洋海さんのこだわりが親子2世代で、しっかり根付いてきているようです。