「なんにも、特別なことなどないお店ですよ」と『たこ萬』の女将・小山栄子さん。
とはいえ、朝から夜まで持ち帰りのたこ焼きだけでなく、カウンター席には常にお客さんが座っているのだから、なにもないわけないはずです。そこでひとつ、たこ焼きを頼んで観察してみることに…。
どうやら常連さんからは「ママ」と呼ばれている模様。それは飲み屋のママでなく、皆のお母さんという親しみの現れのようです。ちなみに、カウンターに焼酎や日本酒の瓶が並んでいますがまったくの下戸。飲み過ぎのお客さんには体を気遣い、ストップをかけたり、愛情を込めて退場を命じるほど。
とても接客が上手に見えますが「今まで務めたことなどなく、ずっと主婦と母親業しかしたことなくて…」。ところが7年前、この店をそれまで切り盛りしていたご夫婦が高齢で辞めるにあたり、お友達から「たこ焼きくらい焼けるでしょ」と誘われて、お店を継ぐことになったそうです。
ご主人が亡くなって2年目、ひとりで家にこもっていてもよくないと思ったお友達の配慮だったようですが、そもそも料理好きで器用な小山さん。やるからには、喜ばれるものにしようと、それまでたこ焼きとお好み焼きしかなかったメニューを一新。
お腹がへった人にサッサと作って出せる一品料理から、定食まで揃えてしまいました。「でもね、適当なのよ。今日は寒いから粕汁仕込もうかなぁ、とか。おでんが喜ばれるかしら、とか」と、厨房はすっかり小山さんの台所です。
お客さんの中には、一人暮らしの人も多く「そういうお客さんが食べたいって言ったら、ついそれを作ってあげたいと思うんですよ。旬のものも食べたいでしょうし。1人だったら、あまり他のお店にも入りにくいでしょうし」と、なるそうで。やはり皆のお母さん的存在です。
「そういえば、ふらりと東京からお見えになった人に「大阪のおかあさんやね〜」と言われたわ」とにっこり。どこかタカラジェンヌのような雰囲気漂う美人な小山さんが甲子園のお母さん代表となれば、鼻高々です。
さて、オーダーしてから焼き上がるまで15分。たこ焼きが完成しました。ピンポン球サイズの大きさですが、あえて大だこ、と名乗らないところが、いい。焦げ目がついて見るからにおいしそう。
気になるお味のほうは、外はカリッカリでソース風味が香ばしく、中はとろ〜りクリーミー。大きめのタコが食べ応え満点。8個なんてあっという間に、ぺろりと平らげられます。
美味しさの秘密を聞いてみたところ「そんなのなんにも、ないわよ。しいていえば、銅板のたこ焼き器でガスの強火で焼き上げるからかしら。タコは生タコの冷凍を使います。時々、いいタコが入ったら、お刺身でも出しますよ。
鰹の削り節をのせて、熱々のたこ焼きの上で踊る感じのほうが見た目が美味しそうかもしれないけど、うちは鰹の粉を振るのよね。このほうが、味が馴染んで美味しいから」と、美味しさ重視で作っていることが伝わる回答。
そうそう、明石焼とは違って、普通に焼いたたこ焼きをダシにつけて食べる食べ方もあり、知る人ぞ知る人気メニューです。ソースのたこ焼きが400円、だしのたこ焼きが450円。まずはお持ち帰りでその美味しさを試してみてくださいね。