どこの病院の処方箋でも扱っていると聞いたものの、待ち合い室がいつも空いてる『しおり薬局鳴尾店』。
それなのに、薬を調合する奥の部屋では薬剤師さんがバタバタと調薬しています。この不思議な現象の理由は、365日24時間対応の老人施設・在宅医療支援薬局だからです。
つまり処方箋を持参する患者さん以外に、施設を含めて約200人の薬の管理をしているのです。フットワークも軽く、配達エリアは西宮のみならず芦屋、尼崎まで網羅しているのだそう。
もともとある薬局の薬剤師だった大曲正司さん。在宅医療が増えてきている現代、ただ薬局で待ってるだけでなく、薬剤師もどんどん出て行かなきゃと思い、在宅医療対応の薬局を開業したのが2年半前。
実に9割近くが、在宅訪問による薬のオーダーだといいます。まだ西宮でも珍しいタイプの薬局とはいえ、この『しおり薬局鳴尾店』が人気を集めるわけは、心の行き届いたサービスにあります。
例えば、施設に薬を届ける場合、ガサッと届いた薬の山を患者さんの家族やヘルパーさんがとりわけ、朝昼晩に区別して…というのが通常なのだけど、大曲さんは個人個人が朝昼晩に飲む薬を飲み違えないように、薬局内でわけてから配達するのです。
なかでも大きな老人施設などに向けて、ヘルパーさんが間違いなく飲ませやすいようにと考えて作った、日替わりのフロア別ケースが大好評だったそうで。
面倒だけど、お役にたてるなら、と、改良を重ねつつ、今も用意されています。
他にも、個人には投薬カレンダーを配布したり、ヘルパーさんや家族から「錠剤が飲み込みにくくなった」などといった患者さんの変化を聞くと、液体の薬のほうがいいのでは、と医師へ進言したり。そういう徹底した薬の管理、服用のサポート体勢から、近所の明和病院からは輸液の配達を任されるまでに…。
それにしても200人の薬の調合、大変でしょうね、と素人な質問をしてみたところ「この薬局一番の働き手は、こいつです」と笑って紹介してくれたのが、全自動錠剤分包機。
一見、自動販売機のようですがパソコンとつながっていて、正確に分包してくれるのだそう。配達は近所なら自転車や徒歩で、遠くなら車で。
代表取締役でありながら、大曲さん自らも運転し、走り回っている日々。
もちろん、個人の患者さんの配達も無料で受けてくれるので、医院での診察後、子供がぐずるとか、雨が降りそうだとか、しんどくて一刻も早く帰宅したい、などといった理由でも気軽に頼むことができます。
処方箋はFAXでも受け付けてくれると言います。なにせ「薬剤師として、薬を通じて、社会に貢献したい」という高い志の大曲さん。
界隈の小学校や幼稚園の専用薬剤師の仕事も受けていて、プールや飲料水の水質検査や保健室のダニ検査などを実施。また西宮の保健所からの依頼で、薬物乱用防止補導員にも任命されているとか。
若いのにしっかりしているなぁと思っていたら、最後にひとつ、年相応な可愛らしいエピソードが薬局の名前の由来に…。薬局として医療の道しるべになれればと、しおり、とつけたそうですが、実は大曲さん、大のサザンオールスターズファン。名曲「栞のテーマ」からひらめいたのだそうですよ。