お花見やちょっとした会合の時にはじまり、気候のいい日の公園ランチから多忙なママを昼、夜、お助け…大活躍の『春夏秋冬』。
厨房に立つご主人・山本和俊さんと店先に立つ良子さんのご夫婦が、ここ鳴尾に来たのは平成12年の春。
神戸・深江の市場の中でお惣菜とお寿司のお店を切り盛りしていたところ、阪神淡路大震災で全壊。和俊さんの釣り仲間から「西宮のお弁当やさんを引き継がないか」と声がかかったのだそう。
店名はそのままに、お惣菜中心でスタート。お客さんからの要望でお惣菜の種類やお弁当がどんどん増えていき、今では店内、両サイドの棚に所狭しと並んでいます。
てっとり早く、一食をゲットするには手作り弁当。日替わりのおかずが詰まったお弁当が5〜6種類、556円(税別)〜で用意されています。メインはトンカツやカキフライや焼肉…と男性も喜ぶ、ガツンとした人気メニューが揃っていますが、それでもまだ足りない場合や気になるお惣菜があると、ついつい買い足してしまいそう。
子どもに人気なのが色鮮やかなオムライス。校が休みの時など、代金を握りしめて、お昼ご飯に買いに来る子どもも多いのだとか。ほんのり甘いチキンライスを卵2個分の半熟たまごでふんわりと包んでいます。その名も地名を上手にもじって『鳴尾ムライス』。
「いいネーミングですね。どなたが名付けたんですか?」と尋ねると、照れくさそうに「私です」と良子さん。開業時、なにか名物メニューを作って地域に馴染みたい、という気持ちがこめられた大事な一品です。
他にも一皿でボリュームたっぷりな丼やカレーライスもあって、近隣で働く人にも「毎日通っても飽きない」と好評です。
人づてに美味しいと聞いてわざわざ買いに来た、と言われることが多いのが、鯖の煮付けだそうで。「美味しく作るコツをよく聞かれるけど、特にないのよねぇ」と真剣な表情で首をかしげる良子さん。
「そうそう、意外に若い子が美味しいと喜ぶのがこれです」と指を差した先には、ワケギのヌタと菊菜の白和え。なかなか自分では作らない、昔ながらの田舎料理が懐かしく、かつヘルシーなので喜ばれるみたい。他にも旬の魚の天ぷらや唐揚げ、カツ類が、揚げ物をしない家庭が増えたこともあってか、飛ぶように売れて行きます。
店内の9割が手作りだと聞いて感心していると「あ、でも手作りって言っても、すべてと違いますよ。例えば『高野豆腐をどうやって作ってるの?』と聞かれても、まさか素材の高野豆腐までは手作りしていませんから。既製品ですよ。主人は農業家でも職人でもないんです、シェフですから」と話す良子さん。
もちろん、聞いた方は味つけのことを尋ねたつもりだったと思うのですが、お店としてはあいまいな回答はしない、のがポリシー。それだけ真剣に調理に取り組んでいるのがわかります。
しかも味に自信があるので、変にお客さんにこびたりしません。「はっきり言って、お客さんに味をあわせたりはしませんよ。ただ、意識しているのは薄味。お総裁屋の総菜は、薄いのはいいけど、辛かったり濃い味は、駄目。だって、いろんな世代のお客さんがいらっしゃるからね。
で、たまたま主人が作る味が皆さんのおくちにおうた(合った)んやと思います。うちの味と、皆さんの食卓の味がたまたま同じやったんですわ」と語る良子さんの真面目さ、そしてその横で静かに微笑む和俊さんの穏やかさが、そのまま味わいに出ているなぁ、と思いました。