リゾートホテルのエントランスのような外観。カフェかレストランにも見えますが「カルム ヴィラ」は、もう20年近くこの地域で親しまれるヘアサロンです。出迎えてくれたオーナーの川畑琢三さん。界隈でカリスマ美容師と言われ、5年前に取材した際には人を寄せ付けないクールな空気に圧倒された記憶がありますが、ここのところイメチェンと巷で話題になるのも納得の、ほのぼのした雰囲気。お伝えすると「確かにやっとゆとりが出ました」とニッコリ。
ヴィラと名付けられているのは複合施設という意味から。裏にある同経営のレストランと店内でつながっていて、ネールサロンが併設されている時期もありました。カットだけでなく、美味しいもの食べたり、美容体験したり…そんな非日常を味わえる場所にしたかったそうです。以前は甲子園店もあり、自身、指名をこなすのに多忙なうえに、二店舗80人ほどいたスタッフの対応もしなければならず、気遣いや気配りばかりで、余裕がなかったと言います。裏のレストランを改装して、奥様が腕をふるう韓国料理店「ajian オリエンタルダイニング」にしたのを機に、現場から退き、韓国料理店の手伝いをしたり、自身のキャリアを活かした活動に専念するようになられたという今。「スタッフがベテランになり、全て任せられるようになったので」という言葉に、川畑さんの歴史を感じます。
九州で生まれ育った川畑さんは、早く一人前になれる職業として美容師になる決意をして16歳で西宮へ。住み込みで働きながら、通信教育で学び、国家試験に臨みました。現場で身につけた技術と人とのご縁のおかげで、ここ鳴尾で小さなお店をスタートさせたのが20歳の時。独立の際も故郷や大阪、神戸は考えもしなかったといいます。「美容師への第一歩が西宮で、たくさんの人に支えられて今がある。だから今も地域に根差し、皆さんにどうやったら喜んでもらえるかを一番に考えています」という言葉は、人生の半分以上、西宮で暮らし、すっかりみやっこになった証ですね。
ヴィラは完全予約制で基本指名制で、川畑さんが美容師としてお店に立つのは週に1、2度ほど。その貴重なカットを、取材をかねて体験してみました。普段から混み合うことはないそうですが、この日は貸し切り。贅沢な非日常気分でカットに挑みました。まずは手際よくシャンプーしてもらって、鏡の前に座ります。すると、ブリーダーが洗髪をした犬にするように、ドライヤーを当てながら、手ぐしで大胆に逆立てていきます。鏡に映る爆発頭に驚く私ですが、頭皮まで乾かすのが、川畑流。そうすることで髪の素の状態が分かり、髪質やボリューム、くせを把握。そのお客さんの悩みまで的確に確認してこそ、大満足のスタイルにすることができるのだそう。「帰りに綺麗にセットして送り出されても、翌朝、自分でシャンプーして、乾かした時にサロン同様に仕上がらないと意味がないでしょ?」と。本当にそう!なかなか翌朝、うまく決まらず、自分の不器用さを嘆くいている人は多いはず。満足が続くスタイルに仕上がる秘密は、カットにありました。見て、聞いてびっくり。川畑さんのハサミ捌きは超高速!耳元では、サクサクサクサクと微かな音がリズミカルに続きます。通常の40倍動かして、毛をボリュームや流れをコントロール。量を減らすのに、すきバサミを使用するとカット直後は落ち着くけれど、すぐに広がってしまいがち。だから川畑さんはスタイリングしやすく、かつ次のカットまでできるだけ長持ちするように心がけて独自の高速カットを生み出したのです。大都会でのカリスマ美容師は、違うかもしれないけれど、ここ甲子園界隈でカリスマと呼ばれる所以は、お客さんの痒いところに手が届く技術と心遣いなんだ、としみじみ体感しました。