鶏や　矢田：甲子園けやき散歩道（旧国道）

　鶏や　矢田

こんなところに、隠れた逸店

あら? 大きな提灯がない。と、以前の店構えとガラリと変わったシンプルなデザインに、驚いた人も多いはず。宮崎名物の鶏のかご焼きが食べられることで人気だった【炭や　えん。】が2023年の秋に全面改装。装いも店名も新たに「鶏や　矢田」として甲子園けやき散歩道に加盟しています。

この大きな変身のきっかけを尋ねると「ずっと思い描いていた『魅せるキッチン』と『旬を取り入れたおまかせコース料理の提供』を実現したくて」と語る矢田政次さん。

コの字型をしたカウンターの向こう、一段下がったフロアは厨房と呼ぶには美しすぎるほど整った、手元が丸見えのオープンキッチン。そこに矢田さんが一人立って切り盛りしています。席数はカウンターのみで14席。メニューは以前のような居酒屋スタイルではなく、比内地鶏の焼き鳥がメインの、前菜から始まるコース料理のみ。前店同様、食材は鶏はもちろん、野菜にこだわりがあります。旬を取り入れること、そして出来るだけ無農薬のものを選びます。それは自分たちで育てた野菜を送ってくれる、山口県在住のご両親の影響。丁寧に真心こめて作った食材を丁寧に調理するのだから、とびきりの美味しさは、確定です。

オープン当初は予約必須にしていましたが、通りすがりに「こんなお店あったんや」と喜んで初来店されるお客様もいたりするので、今は出来れば予約を、というスタイルにしているそうで、じわじわと新しい常連さんも増えつつあります。

メインの炭焼きの焼き鳥もお客様の目の前で。

ガラス張の向こうでは、備長炭がいい具合に赤くいこっていて、熱気を放っています。そこで調理が始まると、食欲をかき立てる音と香り、手際良い矢田さんの所作が加わって五感を刺激するのですから、たまりません。調理を眺めながら、次の皿が届くのをワクワクしながら待つのも贅沢な時間です。

食器はすべて焼き物。この店の料理と相性がいいものを、と信楽、立杭、唐津、有田などの器をセレクトしています。焼き鳥を並べるためのショープレートは唐津焼の作家もので、使い勝手を考えて大きさの希望も伝えて作って貰ったものだそう。

それにしても、前のお店の面影はみじんもなく、隠れ家のような外観で、扉を開けるとちょっとした小料理屋のような雰囲気。最近、趣味として楽しんでいるという盆栽がさりげなく飾られていたりして、なんとなく一見さんお断りに見えてしまいます。それゆえ「カジュアルな鳴尾では、しんどいんちゃうか」と今までの常連さん達に心配をかけたとか。「心配してもらうのはありがたいですが、年数回、特別な日に使ってもらう店、でいいんです。飲食店の店主はみんな理想の店の形を持っていて、なかなかやれないのが、現実です。だから私がやりたい店をやってることで、そんな仲間に勇気や夢を与えられたらいいなとも思うんですよね」と。そして「こんな場所にこんな店あるんや」と言われるのが、何よりも嬉しい褒め言葉だとか。「神戸でも大阪でもない、ここ甲子園鳴尾エリアに愛着があるし、今まで【炭や　えん】としてお世話になった恩返しもしたいんです」と、開店の準備をしながら微笑む矢田さん。